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第2章 小鳥と始まる日常 2/3

last update Date de publication: 2025-04-03 18:00:36

 あの歌が聞こえる。

 まどろみの中、その優しい歌声に悠人〈ゆうと〉がゆっくりと目を開けた。

「小百合〈さゆり〉……」

 歌声の主は小百合の一人娘、小鳥〈ことり〉。

(小百合そっくりだな……)

 小鳥は台所で朝食の準備をしていた。

 そういえば昨日から、小鳥が家に来てるんだったな……そのせいか。あんな夢を見たのは……悠人の頭が徐々に覚醒してくる。

 * * *

 ゆっくりと起き上がり、机の上の煙草に手をやり、火をつけた。その気配に気付いた小鳥が、勢いよく部屋に入り悠人に抱きついた。

「おはよー、悠兄〈ゆうにい〉ちゃん!」

「わたったったったっ……待て待て小鳥、火、火っ……」

「だめだよ悠兄ちゃん、寝起きにいきなり煙草吸ったりしたら。寝起きにはまず水分摂らないと。癌になる確率が上がるんだからね」

 どこでそんな知識を仕入れてるんだか……大体癌のことを言い出したら、煙草そのものが駄目だろうに。

 そう思いながら煙草をもみ消す。

「あーっ、そうだった!」

 いきなり小鳥が大声を上げた。

「なんだどうした」

「悠兄ちゃん、なんで隣の部屋に移ってたのよ。起きたら隣に悠兄ちゃんがいないから、寂しくて泣きそうになったんだからね。朝から半泣きで探し回って、最っ低ーな目覚めだったんだから。プンプン」

「……プンプンって擬音を口にするやつ、初めて見たぞ……まぁあれだ、小鳥。寂しいかもしれないけど、同じ屋根の下なんだから我慢してくれ。いくら小鳥でも、流石に18の娘と一緒には寝れんよ」

「結婚するんだからいいじゃない。それに歳も18だし、条令もクリアしてる訳なんだから」

「条令ってお前、何の話を……この話は長くなりそうだな。朝ごはん作ってくれたんだよな、食べようか」

 話をかわされ、少し不満気な表情を浮かべた小鳥だったが、

「だね。まずは食べよっか」

 そう言って立ち上がった。

 * * *

 顔を洗い、歯を磨いて椅子に座る。小鳥が手を合わせているので悠人もそれにならった。

「いっただっきまーす」

 なんで朝からこんなに元気なんだ。こんなところまで母親ゆずりなのか……苦笑しながら悠人が食パンを口にする。

「そうだ悠兄ちゃん。悠兄ちゃんには朝から言うことてんこ盛りだよ」

「なんだ、何でも言ってみろ」

「威張ってもダメ。悠兄ちゃん、冷蔵庫の中に物なさすぎ。コーラとお茶だけってどう言うこと? 冷凍室は氷の山と食パンだけだし、今までどんな生活してたのよ。それにこれ」

 そう言って立ち上がり、流し台の下を開けた。

「インスタントラーメンの山、山、山! 健康管理する気、全然ないでしょ」

「ま……俺の食生活はいいじゃないか」

「いい訳ないから言ってるの。全く……こんなんじゃ成人病まっしぐらだよ」

「昨日も言ったろ。俺は腹が膨らめばなんでもいいんだよ」

「何の説明にもなってないからね、それ。はあっ……まあいいよ。小鳥がこれから、悠兄ちゃんの食生活を徹底的に管理するから」

「お手柔らかにな。それで小鳥、小百合……母さんは今、どんな仕事してるんだ?」

「お母さんは旅館で仲居さんやってるんだ。そしてね、宴会になったらステージで歌ってるの。街のアイドルなんだから」

「アイドルって……でもまぁ、小百合らしいな」

「求婚してきたお客さんは数知れず」

「ははっ……で、小鳥。お前これから、ここでどうやって生活するつもりなんだ? とりあえず明日も休みだから一緒にいれるけど……まあ大学が始まったら忙しくなるんだろうけど、それまで家でごろごろしてる訳にもいかないだろ」

「へっへーん。実はもう、仕事みつけたんだ」

「仕事?」

「うん。コンビニのバイト。さっき行ったコンビニで採用してもらったんだ。あの店のおばさん、すっごく感じのいい人だよね」

「早っ……おばさんってことは、あのコンビニか……まぁ確かに、あのおばちゃんなら即決しかねんな」

「うん。悠兄ちゃんの嫁ですって言ったらびっくりしてたよ」

「お前なぁ……そうやって外堀埋めていくんじゃないよ」

「悠兄ちゃんのこともよく知ってるみたいだったし、悠兄ちゃんが大好きって感じだったよ」

「まぁ付き合い長いからな。でも結構暇だぞ、あの店」

「そうなの? じゃあ頑張りがいがありそうだね。あさってからだから、今のうちに作戦練っておくよ。

 にしても、本当に何もないキッチンだよね。ねえ悠兄ちゃん、今日お買い物一緒に付き合ってくれる? 色々揃えたいから」

「ああ。じゃあ飯食ったら一緒に行くか」

「うん!」

 * * *

「……買いすぎじゃないのか。こんなに持って帰れないぞ」

 まず食材を調達しにスーパーに来た悠人だったが、小鳥の容赦ない買いっぷりに思わず声を上げた。

 米に肉、魚に野菜に調味料。二人並んで押すカートの中は食材で埋まっていた。

「ああ小鳥、出さなくていいよ。俺が払うから」

「いいよ、これは小鳥が払うから」

「そんなところで遠慮しなくていいよ。お前が作ってくれるんだから、食費ぐらい出すよ」

「違うよ。小鳥は悠兄ちゃんに小鳥の料理を食べて欲しいんだよ。悠兄ちゃんに食べてもらう為に、頑張って料理の勉強してきたんだから」

「そっか……じゃあ折半な。それを家賃ってことにしよう」

「うん!」

 レジに並びながら財布を出そうと、小鳥がリュックの中を探している時。

 リュックについている、古い小さなピンバッチに悠人が気付いた。

 見覚えがあった。

「小鳥、それって」

 それは小鳥が5歳の時に悠人があげた、悠人手作りの天使のピンバッチだった。

「お前、そんな物まだ持ってたのか」

「そんな物とはひどいなぁ。これは小鳥のお守りなんだからね。嫌なことがあったり辛い時にね、いつもこの天使にお祈りしてたんだ。この子を見てたらいつも、悠兄ちゃんが傍にいるような気持ちになったんだから」

「そっか……まぁ何て言うか、ちょっと照れくさ…………ん?」

 天使の横についている、もうひとつのピンバッチ。

 それを見て、悠人の目が鈍く光った。

「小鳥、それはそれとして……なんだその、横についてるやつは……」

「あっ、これ?」

 その瞬間、小鳥の目がキラキラと輝いた。

「いいでしょこれ! レア物なんだよ。魔法天使〈マジック・エンジェル〉イヴ!」

 その、一部の人種にありがちな瞳の輝きに。

 悠人が動揺した。

 まさかお前……

「1期の限定ボックスの特典! 2期、悠兄ちゃんも当然見てるよね」

「そうかお前も……こっち側の人間になってたのか……」

「こっち側って何よ。あっそうだ、こっちってジェルイヴは何曜日?」

「ジェルイヴは今日だ」

「じゃあ明日、一緒見ようね。楽しみだなぁ、ジェルイヴを悠兄ちゃんと見るの」

「小百合……お前、小鳥を育てる過程のどこかでボタン、掛け違えたんだな……」

 悠人が遠い目をして笑った。

 * * *

 その後コップや茶碗等々、日用雑貨を購入。小鳥は悠人の分もお揃いで購入した。

「おっそろのコップ♪ おっそろの茶碗♪ おっそろのお箸♪」

 小鳥は上機嫌だった。

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